豚肩ロースのコンフィ/ポンコツ日本男児と願掛け
それは、なんの前触れもなく
突然やってきた。
起床してすぐに気が付いたのである。
前日までなかった体の異変に。
最初は寝違えただけだと思っていた。
半日もすれば
自然に治ると軽く考えていた。
しかし、目論見は虚しくはずれ、
待てど暮らせど
治癒していく感じがないのである。
それどころか、症状は日に日に悪化して、
気が付けば右肩の肩まわりが
チルドの塊肉みたいに、
冷たく凝り固まっている。
そしてついには、痛みで睡眠に
支障をきたすほどになってしまった。
ある受け入れがたい症状名とともに、
脳裏に浮かんだのは、僕より3つ上の
自称メタボリック編集者こと、
ハギワラさんの顔。
昨年末、門前仲町の居酒屋で
彼はこんなことを言っていたっけ。
「なるときは突発的になるからね」
デスクワーク中心で、
見るからに運動不足な
僕への忠告だったんだろうけど‥‥。
そのときはまったくピンとこなくて、
それを発症したばかりのハギワラさんに
「いよいよオヤジっぷりが
本格的に板についてきましたね」
なんていって揶揄していた
自分が今になってみれば恥ずかしい。
「あのとき真摯に耳を傾けて
ウォーキングでもはじめておけば、
こんなことにならなかったのかも
しれないな」。
念のために整形外科に行って
レントゲンをとってもらったけど、
骨には異常はなし。
「肩を動かすことを意識しながら、
適度な運動をしてください。
少しずつ良くなると思いますよ」
やさしい口調でおっしゃる
初老の先生の話を聞きながら
もうそのときには確信したのである。
自分が40肩になってしまったことに。
運動不足の人が増えているからか、
同じような症状に悩む人が
最近、増えてきているそうだ。
それからというもの、
簡単な運動やストレッチを
できるだけやるようにして、
肩のケアに努めている。
がしかし、発症してかれこれ
3カ月くらい経つものの
痛みが一向におさまらない。
苦痛の日々がマイナス思考を誘導して、
最近は、この肩の痛みとは一生付き合って
いかなければならないんじゃないかと
思うようになってきた。
ただ、そんなふうに不安になったとしても、
それを払しょくするために
「日々の運動の強度をあげてみよう」
とならない、何とも煮え切らないところが、
僕の数ある欠点のひとつだと思う。
本来、日本男児が持ち合わせているはずの
辛抱強さや根性など健気で屈託のない心意気が
まるで備わっていないのである。
その代わりというには、お粗末だが、
もっぱら熱心になっていることが、
肩の痛みを気にせず熟睡できる寝相の研究。
そして、豚の肩ロース肉を
よく噛んで食べることである。
現状を受け入れつつある僕にはもう
自己流の緩和療法と願掛けくらいしか
追加の対処法が思い付かないのである。
つまり後者においては、
子宝を願っておせちに数の子を食べるように、
食材の特徴と自分の願望に接点を見出して、
それを食べることで
成就を願うタイプの願掛けを
勝手に自分で考えて取り組んでいるわけだ。
「肩ロース肉をよく噛んで食べることで、
どうにか僕の40肩もほぐれてほしい」
それからというもの、トンテキにしたり
バルサミコ酢で煮てみたり、
いろんな料理で豚の肩ロース肉を食べている。
なかでも最近気に入っているのが
豚肩ロースのコンフィだ。
作るのが簡単だし旨味が凝縮されているから
よく噛んで食べるようになるのがいい。
それに赤ワインとの相性もバッチリだ。
あまりにも相性がいいから、
この前なんかも、呑んでいるうちに
願掛けのことなどすっかり忘れて、
「今度は鶏モモ肉でコンフィを作ろうかな」
などと、身も蓋もないことを
ひとりごちていたことはここだけの話である。
こんなんだから完治は、まだまだ先かな。
みなさんも、どうか注意してほしい。
「なるときは突発的になるからね」
【H・H】
『 R E C I P E 』
昨年、甘酒を作るためにヨーグルトメーカーを買いました(購入品の商品名は発酵食メーカー「発酵美人」・下欄参照)。あらかじめ調べ上げてなるべく安価で容器が大きめのタイプを選定しましたが、これが大正解。いろいろな料理に活用できて、とっても気に入ってます。構造はとてもシンプルで、ざっくり言えば容器内の液体を設定した温度に保ってくれる道具です。僕の持っているものは容器の大きさが12センチ四方で、温度は25℃~65℃までの幅で設定が可能です。
僕はよくこれで、流行りの低温調理の料理を作ります。たとえば、あらかじめ表面を焼いた牛もも肉(200グラム)を真空パック。ヨーグルトメーカーにその真空パックしたお肉と、お肉がひたひたになるくらいの水をはって、60度に設定したヨーグルトメーカーで2時間煮ればジューシーなローストビーフの出来上がり。今回のコンフィはもっと簡単で、容器にそのままの豚肩ロースの塊肉(200グラム)と、お肉がひたひたになるくらいのオリーブオイルを入れて、同じようにヨーグルトメーカーを60度で90分放置するだけ。お肉を真空パックをする必要がないから簡単で、なおかつ焼き加減が心配ならば途中でお肉を切ってチェックすることも可能なので失敗がないのです。
今回は、自前のヨーグルトメーカーでコンフィを作りましたが、もしヨーグルトメーカーが無ければ、炊飯器の保温機能でも代用できます。ただし炊飯器の保温温度はメーカーによって違うので、初めて作るときは焼き加減を確かめながら調理してみてください。
一緒にいただいた赤ワインは、イタリアのファンティーニ・ジロというサンジョベーゼ主体の一本です。たくさんの果実味とタンニンに、ほのかな樽香も感じられて奥行きのある味わい。1000円台で買えるワインとは思えないほど骨格がしっかりとしているから、コンフィなどのお肉料理にも相性がいいと思います。
用意するもの 豚肩ロース(塊肉)200グラム 塩適量(目安は肉の重さの1%) コショウ適量 タイム適量 オリーブオイル適量(肉を容器に入れてひたひたになるくらい) にんにく1片 粒マスタード適量
① 肉全面に塩、コショウ、タイムを万遍なくすり込み、ラップに包んで1時間ほど置く
塩はお肉の重さの1%を目安にしてください。コショウとタイムはお肉全体にいきわたるように適量をすり込みます。その後1時間ほど、お肉が常温になるまで室温で放置します。
② 容器に入れたオリーブオイルを電子レンジで60度に温めた後、そこに肉を投入
あらかじめ容器(ヨーグルトメーカーの場合)に肉を入れて(肉は容器のサイズに合うように適度に切り分けてください)、オリーブオイルがひたひたになるまで加えます。その後、肉を取り出して、容器のオリーブオイルを60度に設定した電子レンジにかけます。再び肉を容器に戻して、さらに潰したニンニク一片を加え、60度に設定したヨーグルトメーカーで90分煮ます。その後、容器を取り出して30分放置します。
③ 強火のフライパンで表面に焦げ目がつくまで肉を焼いたら、好みの大きさに切り分けて完成
今回はサイコロ状に切り分けましたが、薄切りや塊肉のまま盛り付けて、テーブルで好みの大きさに切りながら食べてもいいと思います。もしあれば、盛り付け時に粒マスタードを添えると見た目も華やかになりますし、味のアクセントにもなります。