ワイルドクレソンのパスタ/婆と春の贈りもの
『五風十雨(ごふうじゅうう)』とは、
五日に一度風が吹き、
十日に一度雨が降る日々のこと。
転じて五穀豊穣や、平和な日々を
表す言葉である。
画家の熊谷守一さんが好きだった言葉。
実際に彼の書で、この言葉のものを
見たことがあるが、サラッとしているのに
含蓄のある筆致が印象的で、
一発で魅了されてしまった。
そして僕は、この書がきっかけで
『五風十雨』の言葉の意味を知った。
五日に一度風が吹き、十日に一度雨が降る。
天気の上では、そんな日々が
続いている今日この頃である。
がしかし、現状は平和とは
程遠い日々が続いている。
日がな一日、庭の石を観察して過ごすなど、
数々の常人らしからぬエピソードと
その風貌から、仙人にたとえられた
熊谷守一さんだったら、
いまの日々をどう過ごすだろう?
こう書いていると、 そんな婆と僕の春の季語は
常人らしからぬエピソードの持ち主がいる。
女である。それも、もう80近い婆だ。
登山が好きなアグレッシブな婆で、
太平洋から日本海まで
歩きつないだことがある。
台風直撃の山小屋で
一夜を過ごした過去もある。
北欧のフィヨルドを巡るトレッキングで、
崖から落ちかけた過去だってある。
さすがに最近は無茶はしなくなったが、
それでも朝は早くから山に登り、
山に自生している
山菜や野草なんかを摘んでくる。
そして昼に帰宅すると、
それを食らうのである。
本当は山姥なんじゃないかと思ってくるが、
見た目はどこにでもいるような婆である。
一も二もなくクレソンだ。
この時期になると婆は決まって
山に自生するクレソンを摘みに行く。
そしてそれを我が家に
大量に届けてくれるのが
春の風物詩となっている。
2020年。明るくて暗い日々に届けられた 「栄養価の高いクレソンは、 【H・H】
いつも大量消費に最適なペーストにする。
今年ももらったその日に、さっそく仕込んだ。
上手にできたクレソンペーストは、
ル・パルフェの小瓶2個では納まらないほど。
おさまらなかった分は、夜にパスタと和えて、
白ワインとともにいただくことにした。
ささやかな春の味覚に乾杯なのである。
免疫アップにもよさそうだ」
白ワインがまわりはじめた頭の中で、
そんなことを考えていると、
脳裏に浮かんだのは、
ボロ羽織を召した山姥ルックの母。
その羽織に山茶花の絵が描かれていたのは、
落花しても長い間彩りを失わない山茶花に、
山姥の生命力を重ね合わせてのことか。
思わず苦笑。
でも、見た目はどこにでもいる婆なのだから
いたわらなければいけないな。
不安しからば用心だ。
ウイルス撃退に効果があるかは知らないが、
クレソンペースト一瓶は、
明日、実家に持っていくことにしよう。
『 R E C I P E 』
大量のクレソンは、ペーストにすることでたくさん食べられます。バジルペーストを作る要領で、胡桃とパルミジャーノチーズをたっぷりいれて。食べ方は、やっぱりパスタに和えるのがいいですね。それも、太めのリングイネが◎。具材は、冷蔵庫に残っていた豚小間を使いましたが、ベーコンの方がベターです。また、野生のクレソンを使用する場合は、調理する前にさっと湯通ししましょう。
お酒は、すっきり爽やかで柑橘の香りのある白ワインが好相性だと僕は思います。ちなみに、この日飲んだのはデルスールという銘柄のチリのシャルドネ。近くのスーパーで500円代で売っているものですが、柑橘系にくわえリンゴのような風味と苦みのある爽やかな飲み口。デイリーワインとしてとてもお気に入りの白ワインです。
用意するもの(2人分) ペースト用(クレソン100グラム くるみ20グラム パルミジャーノレッジャーノ30グラム オリーブオイル大さじ2 にんにく1かけ レモン果汁小さじ2 塩コショウ適量) パスタ(リングイネ)200グラム 炒める具材(アスパラ2本 白マッシュルーム2個 豚小間100グラム) オリーブオイル大さじ1 塩コショウ各小さじ1
①ペースト用の材料をフードプロセッサーにかけペーストをつくる
味を見ながら塩コショウを投入して好みの濃さのペーストをつくりましょう
②炒める具材を豚小間、アスパラ、マッシュルームの順に投入し炒めます
中火で熱したフライパンにオリーブオイルオイルをひき、豚小間を投入します。豚小間の表面が白くなってきたら、薄切りにしたアスパラとマッシュルームを入れます。塩、コショウを各小さじ1加えたら、それぞれの具材に火が通るまで炒めます。
③パスタを茹で、茹であがったら②に投入。さらに①を加えよく和えます
パスタを表示通りの時間で茹でます。茹であがったら②のフライパンの中に投入します。さらに①をくわえたらフライパンの火を止めて、余熱を活かしながら全体が満遍なく混ざるようによく和えたら完成です。