パプリカのアンチョビマリネ/料理の引き算
若いころは近くにあるものなど見向きもせずに、
ひたすら遠くにあるものにあこがれていた。
感嘆符をまき散らしながら見知らぬ土地を
旅するのが経験値を上げる唯一の手段だと、
冗談でもなんでもなく思っていた。
地元に帰れば富士山や伊豆など
日本のシンボルがあったが、
それらはみな月並みすぎて、
刺激を得られなかったのである。
こんなふうに、いつも新しい刺激を求めていて、
ありきたりなものは、敬遠してしまう。
これは若いころの僕に限らず、
若者の習性と言えなくはないだろうか。
だから刺激を得られにくい今の自粛生活は、
とくに若者には気の毒だと僕は思う。
だから、たとえ現状に不満があっても、
今まで散々羽を伸ばしてきたオジサンが、
それを言って世の中の空気を
少しでもよどませてはいけない。
それに今は、ふと仰ぎ見る富士山に
たくさん刺激をもらえる歳にもなってきた。
「四の五の言わずに
粛々と自粛生活を続けよう」
と、今のところは思っている。
ねぎが入れば、最高からちょっと こう毅然とおっしゃるのは、 この本が斬新なのは、料理本なのに、
ただ引きこもっているだけでは
やっぱり気持ちが滅入ってくる。
そこで、日々を荒廃させないための、
ささやかなイマジネーションが必要になる。
下がってしまします。
椎茸が入れば、また下がります。(*)
「吉兆味ばなし」の中の親子丼の
解説における湯木貞一さんだ。
言わずと知れた料亭・吉兆の創業者である。
僕は余計な食材は使わないという、
料理における引き算の掟は、
この本から教わった。
写真の掲載は一切ないことだ。
その代わりに、丁寧で美しい日本語による
料理の解説が、どんな写真よりも料理への
イマジネーションを湧きたててくれる。
ちなみに僕が、この親子丼の極意を
ちゃんと理解したのは最近のことであるが、
こんなふうに、読むたびに新しい発見が
あるのもこの本の一興で、
自粛の友の一冊に最適ではないか。
青年は、この地で野菜や果物の 笑うと、造り物のような笑窪ができる、 一度、滞在していたコンドミニアムで
若い日の思い出もある。
おんぼろの中古車を買ってオーストラリアを
1周するという無謀な旅したとき、
バンダバーグという田舎町で
出会った青年との思い出である。
摘果のアルバイトをしていた。
気取ることのない好青年で、
「今は人生の夏休みで、
日本に戻ったら板前になりたいんです」
と、ピュアな台詞をまっすぐな目で
言っていたことを思い出す。
愛嬌のある表情が印象的な青年だった。
彼と吞んだことがある。
彼はバイト先から頂いてきた(くすねた?)
採りたてのパプリカとパッションフルーツを
差し入れで持ってきた。
それを使ってマリネを作ってくれたが、
抜群に旨い一品だった。
そしてその味の思い出が、
今でもオーストラリアへの旅情を
かきたてるのである。
「塩もオリーブ油もオージー産の さりげなく食に対する拘りと かれこれ、十五年以上前。 そんな彼は今、シドニーの 【H・H】
オリーブオイルと塩で作ったマリネ液に、
適度な大きさにカットした
パプリカを投入しただけのシンプルなもの。
しかしながら、日本では
絶対に食べられない、
フレッシュで野趣に富んだ
オーストラリアの大地の味がした。
旨いの見つけたんですよ」
含蓄を感じさせることを言う彼が、
「吉兆味ばなし」をバイブルにしている
と聞いた時、この人は、
いい板前さんになるなと直感で思った。
まだ「船場吉兆」が世間を騒がす
だいぶ前の話である。
日本料理店で板前をやっている。
(*)
ねぎが入れば、最高からちょっと下がってしまします。椎茸が入れば、また下がります。
引用元:『吉兆味ばなし』 湯木貞一 昭和57年 暮しの手帖社 P84
『 R E C I P E 』
パプリカのいいところは、調理の仕方で食感を七変化できるところじゃないかと僕は思うんです。マリネにしても、皮むきをするかしないかでかなり違います。また皮をむくにしても、オーブンで全体に熱がいきわたるようによく焼いてから皮をむくか、片面だけを焼いて皮をむくかでも味わいが違うのが面白いです。僕は基本的には皮をむく方が好きですが、コリコリとした食感は残したいので、今回は片面を焼いて皮むきをしています。ただ、結局のところその日の気分にもよりますので、次に作るときは皮ごとマリネにするなんてこともあったりするのです。ちなみに、ここは日本なので本文中のパッションフルーツは使いません。
パプリカの甘みとアンチョビの相性は抜群です。たまたまハチミツの残りがあったので加えましたが砂糖でもいいですし、これは好みなので入れなくても大丈夫です。
これは、もう白ワインがいいですね。オーストラリアのオックスフォードランディングは、僕がはじめてオーストラリアに行った時に好きになって、今でも愛飲しているディリーワインです。ブドウはヴィオニエ。やわらかでリッチな果実味と酸味のバランスがよくマリネとの相性もいいと思います。
用意するもの パプリカ(赤、黄)各1個 A(アンチョビ(みじん切り)2切 オリーブオイル大さじ1と半分 酢大さじ2 ハチミツ小さじ2 塩1つまみ)
① パプリカ2個(赤、黄)を縦半分に切り、種をとる
皮つきのままで作る場合は、そのまま③の行程にとんでください。
② 片面焼きグリルかトースターの片面焼きで皮側が黒くなるまで焼き、皮をむく
皮をむくときは、キッチンペーパーで表面をこするようにむくと簡単にむけます。とはいえ、やりやすさは人それぞれなので、自分のやりやすい方法でむいてください。
③ 1センチ幅に縦に切った②を容器に入れ、そこにAを混ぜて作ったマリネ液を投入
マリネ液をパプリカに満遍なくいきとおるように投入したら蓋をして冷蔵庫で1時間ほど置いたら完成です。
今、自粛規制の中で、俗に言う「映える」投稿っていうのが減ってるんじゃないかと思う今日この頃ですが、このパプリカは相当映えますねぇ。美しいです。
◌˳˚( ˘͈ ᵕ ˘͈ )。♬。*:.◌˳˚
ありがとうございます(^^♪