ひじきと納豆のチヂミ/スッカラカンの清水港
そんなになって縮こまって
新しいものばかりに気をとらわれていると、
あるのが当たり前と思っていた大切なものが
どこかに行ってしまうよ。
夢の中で出会った青年は、
背中を丸めてスマホをのぞき込む
僕にこう語りかけた。
うん、確かにそうかもしれない。
いや絶対にそうだ。
ほら、あそこの紳士だって、
馴染みの定食屋が無くなっていることを知って
目に涙を浮かべて消沈していらっしゃる。
美食家がどんな講釈をたれたところで、
最後の晩餐に選ぶのは、
子どもの頃から慣れ親しんできた味。
でもそれだって、いつまでも食べられると
思っていてはいけないんだ。
ないがしろにしていたら、
知らぬ間に二度と食べられなくなってしまう
ことだってあるのだから。
それにしたって、スマホをのぞきこむときの
背中を丸めた姿勢の窮屈なこと。
そんなんじゃ、視界が悪くなって、
目先の新しいものしか見えなくて当然である。
『新しいもの』は「雲」。
太陽は一番奥側で確かに輝いているけれど、
フワフワと不安定に移ろう雲によって
姿をくらますこともある。
いったいどれだけ新しいものを追い続けたら
気が済むっていうんだい?
心の一番奥側で光を灯す大切なものを
見失ってまで探しているものは
いったいどんなものなんだい?
こうしているあいだにも、
またどこかで、灯が消えかかっているんだ。
よくばってはいけないよ。
時間が無限にあるというのは、
まやかしだから。
夢の中に突然現れた青年のご教示。
その青年の風貌は、シン君にそっくりだった。
いつも陽に焼けていて、
ウサギのようにぴょんぴょんと、
跳ねるような走り方が特徴的な
小柄で活発な僕の幼馴染。
学生時代は成績優秀で、スポーツも万能。
でも、それを鼻にかけることはなくて、
一緒にしこたまバカもやった。
そんなシン君のトレードマークといえば、
カーキのケースに入った
軍物さながらのアルミ製の水筒だ。
そのことについて聞いてみたことがあったけど、
悪戯っぽい笑顔を浮かべながら
水筒を股間にあてがって、
「だって、こうすればスッポリ隠れるでしょ」
と茶目っ気たっぷりに言ってたっけ。
僕は彼に憧れていたところがあったから、
彼が持っているものはなんでも欲しくなって
実際に、母親におねだりしたりした。
ドラえもんのコミック。
ドンキーコングのゲームウォッチ
ドンジャラに野球盤。
先日、そのことを思い出して、
実家の押し入れをあさっていたら、
ドラえもんのコミックが6冊見つかった。
タイムカプセルを開けるような気持ちで
読み返しはじめたけど、
途中から胸があつくなって、
涙をこらえるのに必死だったっけ。
そういえば、あの水筒はどこにいったのだろう?
いつも砂糖たっぷりの甘い麦茶が入っていた、
100年使えそうなあの水筒は。
アコーディオン弾きのオジサンは?
シン君と二人でよく行った
清水港の波止場の片隅で、
メランコリックに蘇州夜曲を奏でていた
英国紳士のようないでたちのダンディーは。
ゆっくりと奥歯を噛みしめると、
脳が刺激されて、いつの間にか
どっかにいってしまった懐かしいアイテムが
次から次と脳裏に浮かんでくる。
そして、記憶が数珠つなぎになるほどに、
今となっては行方不明なものばかり
であることを痛覚する。
現実はスッカラカン。
何かしらは見つかるだろうと思い立って、
しばらくぶりに清水港に立ち寄ったものの、
唯一、遠くに聳える富士山だけが
記憶の中の清水港の風景と一致した。
すっかり取り残された気分。
やっぱり、背中を丸めて
貝みたいに閉じこもっていちゃ
いけなかったんだ。
そのことを反芻しながら、
背筋をのばして視界を広げると、
遠くに貨物船が一隻。
行方不明になってしまったものは、
きっと、みんなあの船に積んであるんだ。
徐々に遠くに霞んでいく船を
見失わないように、しばらく目で追いながら、
少しずつ気持ちを鎮めた。
心にポッカリ穴が開いたあの日から
もうすぐ一年が経とうとしている。
『 R E C I P E 』
年齢を重ねるにつれて、ついつい現実的な考え方に陥りがちです。でも本当は時間がどんどん少なくなっているわけですから、年齢を重ねるほどに気になることは無理してでもやったほうがいい。今はそういう思いに達し、一年前より少し行動的になったような気がします。新しく、このブログも始めましたし、SNSにも手を出しました。遠くに住んでいる友にも、意識して連絡をとるようになりました。
いつでも会えるだろうと思って、会わないでいることのないようにしたいものです。
子どものころに、シン君の家にお泊りに行くことがよくありました。そのとき、おばさんが作ってくれたのが、ヒジキと人参と納豆のお好み焼きです。これは当時の記憶をたどって作ったものですが、よりお酒のアテとして食べやすいように軽い食感のチヂミ風にしました。あのときは子どもでしたから、喜んで食べたようなものではありませんでしたが、今こうして再現してみると、安い、ヘルシー、旨いの三拍子で、酒のアテとして◎です。これから、僕の定番のアテのメニューになると思います。
合わせたお酒は、カモメが飛び交う駿河湾をのぞむ神沢川酒蔵の正雪の辛口純米をぬる燗で。辛口でありながら燗にすることで、ほんのり甘みを感じます。そのため、お肉にもお魚にも合わせやすく、もちろんこのヒジキと人参と納豆のチヂミにも相性がよかったです。
用意するもの A(戻したひじき100グラム 納豆1パック にんじん1/2本 茹で枝豆(むき身)30グラム) B(薄力粉70グラム 片栗粉30グラム 卵1個 水60ml 鰹だし(粉末)小さじ1) ゴマ油大さじ2 つけダレ(醤油大さじ1 酢大さじ1 砂糖少々 白ごま適量)
① ボールにBを全て入れて混ぜ合わせる
薄力粉、片栗粉がダマにならないようによくかき混ぜます。
② ①にBを加え、混ぜ合わせる
全ての具材が均一になるように、混ぜ合わせます。
③ 強火にしたフライパンで両面を焼く
強火に熱したフライパンに大さじ1のゴマ油を入れて、②を流し込みます。表面がかわいてきたら、残りの大さじ1のごま油を入れ裏面を焼きます。両面がこんがり焼けたら、つけダレの材料を混ぜ合わせて盛り付けたら完成です。