セロリと新玉葱の塩昆布和え/童心の自粛生活
最初からわかっていたことだけど、
今年の桜は眩しすぎた。
艶やかなほど、自粛の日々との
コントラストがつきすぎた。
僕は、「人間の混乱などわれ関せず」
と言わんばかりに予定通りに開花を向かえ、
やがていつも通りに満開の花を
咲かせるという通常運転の桜に、
「お前は本当にあの日本人の
心の中にあるという、あの桜か?」
とつっこみたくなった。
そして若干ショックでもあった。
そんな今年の桜も、もうすぐ見納めだ。
雲散霧消のごとく春霞の中を舞い、
溶けてゆく花弁。
浮き出て見えるほどに艶やかだった桜の大樹も、
色彩がピンクから少しずつ淡い緑に移ろい
周囲の新緑に馴染んでいく。
こうして華やかな桜の季節は、
ゆっくりと春の景色に溶けて無くなるのだ。
桜は散る姿。
そのとき空は春霞が美しい。
そこには調和を好む
日本人の美意識が内包している。
今年は名所での宴会ではなく、
家のベランダから、
散り行く桜をしみじみと眺めたからか。
なんだかんだ言っても、僕の心の中にも
やはり桜は存在しているのだった。
「もう自粛には飽きただろうから、
冒険においきなさい」
そう言って、マスク2枚と一緒に
冒険小説を届けてくれたら、
今より前向きに
自粛生活を送れるんじゃないか。
メルヴィルの『白鯨』を読み返しながら、
そう思った。
この『白鯨』では、主人公のイシュメールの
冒頭の何かを達観したような口上が、
ふさぎこんだ気持ちに檄を飛ばしてくれる。
「懐中は文なし同然、陸地にはこれと
いうおもしろいこともないので、
しばらく船に乗って、水の世界を見て
来ようと思った。わたしにとっては、
それが憂鬱を追い払って、
血行をよくする方法だったのだ」(*)
そういえば、ずいぶん大人になるまで さて、今では大好きなセロリだが、
文無しでも大海原に旅立つことができるのだ。
何か新しい希望を見つけよう。
セロリが嫌いだった僕が、
一転大好きになったのは、とある喫茶店の
大好物だったミートソースの食材に
セロリが欠かせないということを
知ったことだった。バカみたいな話だけど、
人が何か殻を破るきっかけなんて
意外とそんな単純なことだったりする。
だから自粛生活に希望を見出すには、
子どもっぽい視点をバカにしてはいけない
ということが大切かもしれない。
僕の住む静岡も栽培が盛んなようである。
そして、桜が終わるころに静岡のセロリの旬は
終わりをむかえる。それを聞いて以来、
僕は桜が散り始めると条件反射のように
セロリを買いに行く習慣がついた。
セロリを買いに行くスーパーは、
花吹雪が舞う桜並木の土手を抜けた先にある。
この美しい土手の道を、僕はいつからか
期間限定で”セロリ街道”と呼んでいる。
繰り返そう。子どもっぽい視点を
バカにしてはいけないのだ。
【H・H】
(*)
「懐中は文なし同然、陸地にはこれというおもしろいこともないので、しばらく船に乗って、水の世界を見て来ようと思った。わたしにとっては、それが憂鬱を追い払って、血行をよくする方法だったのだ」
引用元:『白鯨』 メルヴィル 昭和27年 新潮文庫 P39
『 R E C I P E 』
旬のものが嬉しいのは、美味しいということはもちろんですが、安いということにもあります。旬のセロリって安い時は60円くらいで売ってることもありますから、僕はそんなとき、まとめて3本くらい買ってしまいます。ミートソースなどの香味野菜として一本。中華の炒め物などに一本。そしてお漬物に一本など、使い道を考えるのもまた楽しいものです。ちなみに、長野方面のセロリの旬はこれからやってくるそうです。
疲れてお腹もそんなにすいてない。ましてや、料理なんて作りたくない。でもお酒を吞みたい。オジサンになってくると、そんな夜がたまにあります。そういったときに作るのが、このセロリの昆布和えです。今回は新玉葱が半個残っていたので、一緒に和えることにしました。またもや料理というような料理ではありませんので、あしからず。
お酒は今回は25度のキンミヤ焼酎に強炭酸水とカットレモンを加えたレモンサワーでいただきましたが、ビールはもちろん日本酒やハイボールなどと合わせるのも大好きです。
用意するもの セロリ1本 新玉葱1/2個 セロリ1/2本 塩昆布20グラム A(ごま油大さじ1 しょう油小さじ1 米酢小さじ1)
① セロリはスジをとり、ななめに薄切りにする。
薄切りの幅は食感を考えながら好みの厚さで。セロリの香りが好きな人は葉っぱの部分もすこしだけ刻んで、一緒に和えれば香りに加えて彩りも美しくなります。
② 新玉葱を繊維に直角に薄切りにする。
切った新玉葱は軽く水にさらし、ザルにあげたらキッチンペーパーなどで水気をよく取っておきましょう。
③ ①と②を合わせたものにAを加えてよく和える。その後30分ほどおく。
しょう油と米酢はお好みで。どちらか一方を入れなくても、両方入れなくても、美味しい塩昆布和えになります。