豚しゃぶキムチ/八十八夜の酒
去年の今時分、
近所のカフェでお茶をしていたら、
隣の席に座った日本人の若者が、
一緒にいた外国人の友だちに
八十八夜のことを一所懸命に説明していて、
思わず聞き耳をたててしまった。
八十八夜。
立春から数えて88日目の日。
日本人に説明するときは、それで充分だが、
相手が外国人となるとそうはいかない。
では立春とはなんぞやと、
新たな疑問が生まれてきてしまうからだ。
そもそも、何月何日という暦は世界共通で、
それさえ知っていればいいんじゃないか……。
説明を聞く外国人の
いつまでも腑に落ちない表情からは、
そんな気持ちが透けてみえる。
「季節を情緒で感じたい」
日本人にはそういう美徳があるんですって、
一寸割って入って、全開の愛国心を
ひけらかしたい気持ちになったが、
すぐにそれは自分には不相応だと痛覚した。
ちなみに、今年の立春は2月4日。 でもまあ、こんなふうに、 とはいえコロナで自宅で過ごすようになって、 難しいことなんてない。
僕はそのとき聞き耳をたてて本当によかったと、
若者に感謝したのは言うまでもない。
そして来年は2月3日である。
ん?と思った人は、一度スマホで
調べてみることをおすすめする。
普段の暮らしでは、どうしたって
利便性や合理性に傾倒していってしまう。
それだけならいいが、僕のような卑怯者は、
都合のいい時にだけ、日本人の美徳がどうの
などとほざくからタチが悪い。
利便性や合理性は空虚を内包していることが
計らずも浮き彫りになってきてはいないか。
今こそ暮らしの隅に追いやられてしまった、
情緒や風流を、もう一度見つめ直したい。
なぜなら日本人なら、八十八夜といえば
新茶の季節と誰でも連想できることなのだ。
ようは、そこから一歩足を踏み出して、
「今年は新茶を買って飲んでみようかな」
となるだけいい。
お茶農家の、この時期は過酷である。 茶筒の中の新茶の甘い香りにいざなわれて、 丁寧に淹れた新茶で作った緑茶の
仕事に追われていた日々においては、
おざなりになっていたりするものなのだ。
摘んだ茶葉は、そのまま放置すると
すぐに発酵してしまう。
深い緑の日本茶を製茶するには、
摘んだ茶葉をすぐに蒸して
発酵を止めないといけない。
もちろん、その後も売り物のお茶になるまで、
茶揉みに乾燥とノンストップの作業になる。
時間との勝負だから、人手だって必要だ。
だから茶農家に産まれたら、会社勤めでも、
この時期は休みを取って、家の仕事を手伝う。
もちろん会社だって、それを認めている。
これは、静岡の風物詩といってもいい。
そんな茶農家の苦労にまで気持ちが及ぶのは、
少しだけ日本人の情緒を取り戻した証拠かな。
そうなってくると、淹れ方だって
自然と丁寧になってくるから面白い。
こうして少しずつ、風流にも
目が行くようになってくるのではないか。
“新茶割り”を吞みながら、
あらためて日本人でよかったと思う。
『 R E C I P E 』
焼酎のお茶割って静岡の人はよく飲みますけど、アテを選ばないのがいいですね。和食はもちろん、中国料理や韓国料理、東南アジアの料理にもよく合います。ただ洋食には、ちょっと物足りないでしょうか。
今回の豚しゃぶキムチは、炒めない豚キムチと言った方がわかりやすいでしょうか。影響されやすいオジサンは、先日テレビでキムチの乳酸菌が免疫アップにいいということを聞いて、さっそくキムチを買ってきてしまいました。乳酸菌をマックスに摂取できる豚キムチを目指し、キムチは炒めませんでした。そのため、作るのも和えるだけなので簡単です。さっぱりしていて炒めた豚キムチとはまた違う美味しさ。暑い季節には、ビールとの相性も良さそうです。
お茶割は、丁寧に淹れた新茶の緑茶を使いました。焼酎は自社の畑で育てた黄金千貫と富士山の湧き水で仕込んだという静岡らしい芋焼酎・いもにい(富士錦酒造)。これぞ静岡のお茶割というです。焼酎とお茶の甘みが融合したやさしい味わいで料理の邪魔もしません。豚しゃぶキムチとの相性もよかったです。
用意するもの 豚肉切り落とし(もしくはしゃぶしゃぶ用)200グラム もやし1袋 三つ葉50グラム 万能ねぎ2本分 キムチ100グラム 中華だし(顆粒)小さじ1 ごま油大さじ1と半分 しょう油小さじ1 すりごま適量
① 豚肉を茹でる。モヤシをレンジで蒸し焼きにする。
豚肉は色が変わるまで茹でたらザルにあげて水気をとっておきましょう。モヤシはラップをしてレンジで1分半ほど加熱します。
② ざく切りにした三つ葉、キムチ、中華だし、ごま油、しょう油をボールへ投入。
キムチは大きければ、ひと口大に切り分けてから投入しましょう。
③ ①とすりごまをボールに投入してよく和え、最後に万能ねぎを散らす。
キムチの塩味がメーカーによっても違うので、和えてみて塩味が足りなければ、塩で味を整えましょう。盛り付けた後に万能ねぎを散らせば完成です。