アサリの香菜蒸し/グルマン恩師
「旅なれている人は、
おおよそ食いしん坊である」
というのが僕の持論である。
たとえば僕の大学の恩師も、
いつも旅行鞄を携えている人だったが、
ご多聞にもれず、かなりの食いしん坊だった。
よく旅の写真を見せてもらったが、
どの旅先でも、ことごとく現地に馴染み
なんでもおいしそうに食らっている。
これじゃないとダメというグルメではない。
なんでも興味を持って食らう
グルマンだからこそ、
「何歳になっても世界中を
飛び回っていられるんだ」
と、僕は写真を見ながら
得心がいったものだった。
それにしても、いい年をした大人があんなに
食べてはしゃいでいる外連味のない写真を、
自慢気に学生に見せるだろうか?
そう考え始めてみると、
なかなかクセのある人だったなということにも
思いが及んでくる。
なにより、すぐに感化されやすく、
子どもっぽいところがあった。
よくあったけど、恩師はそのとき、
旅先で美味しかった料理を再現しようと
試みることがよくあった。
ちょうど中国から帰ってきたばかりのときも
「餃子は皮から作らないと
僕は美味しくないと思うんだ」
と、一丁前の料理人のような台詞をはきながら、
小麦を練ったものと格闘していたのを思い出す。
その姿といったら、もう紙粘土をいじくる
子どもそのものだったな。
それにしても、自分のことを僕っていうのが、
あれほどしっくりくる初老も珍しい。
酒好きが高じてか、
においが強い食べ物が大好物。
なかでもシシカバブに
ご執心だったのには閉口した。
串打ちしたマトンに様々なスパイスを
振りかけて焼いたものだけど、
「僕が食べてきた味に近づいてきた」
といって渡された肉のくさいのなんのって。
でも本人は、それが相当気に入ったらしく、
おかげで学校でのBBQは、
いつしかシシカバブパーティーへと
変遷していったのだった。
「これはもう、三つ星を越えましたね」 一度、恩師のお供で 食いしん坊を武器に旅を習熟してこなければ、
周囲へ放つ匂いも強烈で、部外者からは
僕たちが変人集団に見られていたことは、
今となってはいい思い出だ。
フィリピンに行ったことがある。
そのとき夜に行ったお店で
”香草といっしょに蒸した貝料理”
を食べながらそんなことを
言ってたのを思い出した。
昨年のお別れ会で、
そのときに撮った写真を見つけて、
当時の記憶が鮮明によみがえったのだ。
そこは、オープンテラスのレストランだった。
そして、見上げた夜空に輝いていた星は
三に千を乗じても及ばない。
まさに満天の星のレストラン
だったというわけだ。
なんとはなしに言った台詞が、こうも
背景とシンクロすることはあるまい。
お別れ会のときになって
ようやくそのことに気が付いて、
僕は改めて遺影に手を合わせた。【H・H】
『 R E C I P E 』
日本人ならアサリといえば酒蒸しだろっていう方って結構多いと思います。たしかに、ストレートにアサリのおいしさを味わうなら、酒蒸しもしくは味噌汁だろうなと僕も思います。でも、お酒に合わせた時に、あまりに馴染みすぎちゃって、少しだけカウンターパンチが欲しい。まれにそんな風に思うことがあるのです。そんなとき、いつもの酒蒸しにパクチーを加えるだけで、いいアクセントになってくれます。せっかくなんで、より東南アジアよりに近づけようと香りづけにナンプラーを加えました。
ちなみに、僕がフィリピンで食べた貝の蒸し料理とは全然別物ですのであしからず。
合わせたお酒はビールです。今回は国産ビールですが、タイガービールやシンハービールなどの方が、ツーランクくらいテンションが上がることうけあいです。
用意するもの アサリ(砂抜きして洗ったもの)250グラム パクチー70グラム A(にんにくみじんぎり1片 唐辛子(輪切り)3つ オリーブ油大さじ1) B(料理酒70ml ナンプラー小さじ1~2(好みで))
① パクチーを葉っぱの部分と茎の部分に切り分ける。
葉っぱと茎に分けたら、茎の部分は1.5センチほどの長さに切りそろえてください。
② フライパンにAを入れ香りがたったら、アサリとパクチーの茎とBを入れ蓋をする。
アサリはあらかじめしっかり洗っておきます。Aを入れて香りがたったら弱火にして調理をすすめます。アサリの殻が開くまで蒸し焼きにします。
③ アサリの殻が開いたら火を止めて、器に盛ってパクチーの葉を散らす。
パクチーの葉は、アサリを器に盛りつけながら途中で半分、盛りつけの最終段階のところで残りの半分のパクチーを散らすと、バランスよく盛りつけられます。