パクチーとパイナップルの炒飯/追憶のバリ舞踊
べつにゴールデンウィークだからといって、
旅に出かけることはいままでなかった。
正確には、旅費が高くて
出かけられなかったというべきか。
だからゴールデンウィークの
ステイホーム週間は、
僕にとっては、いつもの習慣だ。
それなのに、御上にかしこまって、
「ステイホーム週間にご協力を」
などと言われると、
なにか難しいミッションを
課せられたようで戸惑う。
そもそも、今までのゴールデンウィークは、
どのように過ごしてきたのか?
戸惑いは、いらぬ疑問をよぶ。
そして、挙句、いらぬ失望をもよぶ。
振り返ると、今までのゴールデンウィークに
自分は何をしてきたのか、記憶がない。
愕然とすることに、去年のことでさえ
何も思い出せないのである。
今年は、時間の浪費ではない
ステイホームを模索しよう。
そのことに気が付けただけでも
御上には感謝するべきなのかもしれない。
大切なことは発想の転換だ。
スリという名前のそのお婆ちゃんが 普段は背筋が曲がって足腰も弱ってきている
改めてそのことを胸に刻んだとき、
ふと脳裏に浮かんだ記憶が、
バリ島の山奥で暮らしながら、
バリの伝統舞踊を踊り、
後世に受け継ごうと尽力する
お婆ちゃんのことだ。
踊っていたバリ舞踊の名前はガンブーという。
現在、バリ舞踊にはいろいろな種類があるが、
そのルーツになったとも言われている
もっともトラディショナルな舞踊のひとつだ。
そのころの、バリ舞踊は
新しくて派手な演出のものが隆盛で、
ガンブーは衰退の一途をたどっていた。
お婆さんは、ガンブーの踊り手の
数少ない伝承者。
昼は子どもたちにレッスンをして、
夜は寺院に出向き舞台に立つ
多忙な日々を送っていた。
と言っていたお婆ちゃん。
しかし、ひとたび踊りとなると、
何かが憑依したように神格のオーラをまとう。
気が付けば背筋はピンと伸び、
手足は先端まで意識が及び自在に操っている。
その美しい舞いは、20年ほど経った今でも
鮮明に目の奥に焼き付いている。
僕は、お婆ちゃんのことを思い出したとき、 今やガンブーは、ほかのバリ舞踊とともに
でも私は踊り続けました」
という、お婆ちゃん。
伝統を受け継ぐ使命を担う人の強さを
まざまざと見せつけられ、
このときは、時間の浪費をしてはいけないと、
心に刻んだはずだった。
若いころの情熱は冷めやすいのか……。
後ろめたさを一寸、
言い訳で蓋をしようとしたが、
それではいけない。
なんていったって若いころは、
年齢を言い訳にする大人が
一番嫌いだったはずじゃないか。
パイナップル炒飯を作る。
当時おばあちゃんがもてなしてくれた一品で
教えてくれたレシピは、今でも記憶している。
今日もいつものレシピの炒飯を、
ビールを飲みながら食べていると、
コロナで弱りかけている心が
少しずつ修復してくるのがわかった。
追憶は虚しいばかりではない。
ときには新たな活力を
与えてくれることもあるのだ。
心機一転、記憶に残る日々を過ごそう。
世界文化遺産になっている。
『 R E C I P E 』
この春は、ご近所さんからパクチーのおすそ分けをよくいただきました。お知り合いがパクチー農家らしく、これほど活き活きとしたパクチーは見たことないほど”採れたて新鮮”です。パクチーというと、いつもはタイ風春雨サラダやフォーなどに入れて食べることが多いですが、僕はあとひとつ、パイナップル炒飯にもよく使います。僕の好みは、具材がなるべくシンプルなもの。パイナップル、パクチー、牛挽肉の3種類で作れば、それぞれの素材がひきたち合い後ひく美味しさのパイナップル炒飯に仕上がります。パラパラ系の炒飯を目指さなくていいので、フライパンをあおったり火加減をそれほど気にしなくても大丈夫です。
ちなみに、バリで食べたものは、お婆ちゃんのアレンジ料理でパイナップル炒飯と言っていいのかもわかりませんが、バナナの葉を器にしたパイナップル以外にもいろいな具材が入った彩り豊かな炒飯でした。
合わせたお酒は、キリンラガービール。最近はやらなくなりましたが、若いころはよくピニャコラーダと合わせました。そうしたらもう、東南アジアへ脳内トリップできることうけあいなのです。
用意するもの(2人分) 白飯(炊いたもの)2合 パイナップル(ひと口大にカットされたもの)150グラム 牛挽肉150グラム パクチー100グラム A(にんにくみじんぎり1片 唐辛子(輪切り)3つ) サラダ油大さじ1 ナンプラー大さじ1 塩コショウ適量
① パクチーを葉っぱと茎に分ける。
茎の部分は2センチほどの長さに刻んでおきましょう。
② 牛挽肉を炒めて色が変わったら、パクチーの茎とパイナップルを投入する
牛挽肉はあらかじめ塩コショウ(各小さじ1程度)で下味をつけておきます。フライパンにサラダ油を敷き温まったらAを入れ香りがたったら牛挽肉を炒めます。牛挽肉の色が変わったらパイナップルとパクチーの茎を投入してサッと炒め合わせます。
③ ご飯とナンプラーを投入して炒めたら火を止め最後にパクチーの葉を混ぜ合わせる
ご飯とナンプラーを入れて満遍なく火が通ったら塩コショウで味を調えます。このときお好みでさらにナンプラーを加えてもいいと思います。味が均等になるように炒め合わせたら火をとめて、パクチーの葉をさっくりと混ぜ合わせたら完成です。