タコと新じゃがとインゲンの洋風炒め/シチリアのオレガノ
長年憧れ続けた地に降り立つ瞬間は、
そう何度もあることではない
人生のハイライトのひとつではないか。
衝動的に憧れる地はたくさんあっても、
長年憧れ続けた地となると、
誰だってそんなに
たくさんはないと思うからである。
僕にとって、そんな地のひとつが
シチリアだった。きっかけは映画。
「ゴッドファーザー」、「太陽がいっぱい」、
「ニュー・シネマ・パラダイス」など、
惹かれてきた映画に、シチリアに
関わる作品が多かった。
そして、いよいよシチリアへの旅心が
抑えられなくなったのは、
「グランブルー」を観たときだ。
「グランブルー」の舞台のタオルミナは、
シチリア島の玄関口となるメッシーナと
カターニャの間に位置するリゾート地である。
僕はこの地のことを、シチリアに
移住経験のあるカポーティが、
自身のエッセイ集で実に魅力的に
描写していたことを記憶していて
名前だけは聞き覚えがあった。
そして僕は、机上とスクリーンで 念願のシチリアは30を少し過ぎたころ。
どんなガイドブックよりも
旅心を誘うアイテムを
常に心に携えておくこと。
予期せず二度も遭遇した
シチリアのタオルミナとは
いったいどんなところなのか。
また、グランブルーと言われる
タオルミナの海は、いったい
どんな青色をしているのか。
この目に焼き付けたいと思ったのである。
絵具で塗りつぶしたような
青空が広がる真夏のことだった。
切り立った崖を背景に飛ぶ無数のツバメ。
遠くを見れば青空に吸い込まれていくように
煙を吹いているエトナ山。
地球の営みを実感する、
ダイナミックなロケーション。
そして高台から望んだタオルミナの海は、
太陽の光をたっぷり反射したときは
明るい南国の海の風情。また、西伊豆の海の
深くて力強い青のニュアンスもある。
とにかく僕の表現力では、説明に窮する、
なんとも形容しがたい複雑で美しい青で、
これがグランブルーかと、その時は妙に
納得したものだった。
そこに欠かせないエッセンスが、 質の良さにおいては世界的にも定評のある タオルミナの海を望む
彩られたシチリアの夏。
爽やかなオレガノの香りだ。
夏の時期、シチリアの家庭の軒先には、
束にしたオレガノを
干している光景をよく見かける。
シチリアのオレガノ。
当然、それを使った郷土料理も豊富にある。
日本では見かけないような料理も
たくさんあって、僕もいろいろ試したが、
なかでも、タコのサラダが忘れられない。
小さなトラットリアで食べた一品。
うすく切った茹でタコを、
オレガノ、オリーブ、塩、レモン
などで味を整え、
最後にイタリアンパセリを散らした料理は、
見た目はタコのカルパッチョのよう。
驚くのは、鼻腔を刺激する
豊かなオレガノの香り。
その風味はシチリアの現地で
食しているからこそで、
日本で同じ味を再現するのは
難しいのではないか。
辛口の白ワインと合わせたが、
もちろん相性も抜群だった。
こんな風にして
僕が長年憧れていたシチリアは、
ここに戻って来なければ味わえない
思い出の味があるという
新しい憧れの地になった。
できることなら、
オレガノが香る夏のシチリアを、
今度はオレガノを使った料理を
食べつくすことをテーマにして
ゆっくりと巡ってみたい。
そんな、新たな人生のハイライトを
模索してみては、すぐにそれが空虚だと
痛覚して振り払う。
思い立ったら旅支度。
そんな風来坊ができた日々が
いかに平穏で幸せだったか
ということを思い知る。
【H・H】
『 R E C I P E 』
大袈裟でもなんでもなくて、シチリアのオレガノは唯一無二だと思うんです。実際に、日本でオレガノを買いあさった時期がありましたが、やっぱりどれもどこか物足りないんです。その弊害として、自分で何かを作るときにオレガノを使うことってあんまりなくなってしまいました。自分でもそれは違うだろとは思っているんですけどね。
ちなみに、このタコとじゃがいもの洋風炒めにも、オレガノを使っていません(仕上げにドライオレガノを和えても美味しいと思います)。それどころか、シチリアのタコのサラダにも似せていません。日本の食卓が似合う気取らない洋風炒めと思ってください。
調理はいつものようにレンジを活用してできるだけ簡単に。タコは極力かたくならないように、投入したらすぐに火を止めてプリプリ食感を残しています。その方が失敗はありませんし、熱々で食べないと美味しくないというものでもありませんので個人的にはいいと思っています。
白ワインは、ファレーリオというイタリアの中央あたりに位置するマルケ州のワインです。ブドウの品種はトレッビアーノ、パッセリーナ、ペコリーノで、酸味に切れ味がある爽やかな味わいなので、マリネや魚介類との相性は◎。価格も1000円代のデイリーワインです。本当はシチリアのグリッロと合わせたいのですが、なにぶん田舎なものでどこに行っても近場では見かけないんです……
用意するもの 茹でタコ150グラム 新じゃが2個 いんげん15本程度 A(にんにくみじん切り1片 アンチョビ2切 オリーブ油大さじ1) 塩コショウ適量
① 新じゃがは8等分、いんげんは半分に切ってレンジにかける。
600Wの電子レンジで、新じゃがは5分、いんげんは2分、それぞれ器にラップをかけて蒸し焼きにします。
② 中火のフライパンにAを入れ香りがたったら①を投入して炒め合わせる
①の具材はあらかじめ火が通ってますので、Aが全体にいきわたって具材が油でコーティングされるぐらいまで炒め合わせれば充分です。
③ タコを投入したら火を止めて味を見ながら塩コショウで味を整える
タコを入れたら火を止めます。仕上げに塩コショウで味を整え、塩味が均等になるようにフライパンの余熱をいかしながら具材を和えれば完成です。