イサキのグリル/梅雨時の白ワインのお供
忘れっぽいというか、
どこか抜けているというか、
要するに記憶力が悪いことに、
昔から悩んでいる節がある。
あえて“節”とつけたのは、
普段は悩んでいることすら忘れているからだ。
ときどき、考えられないような
失敗をして思い出す。
自分が脳の状態を疑うレベルに
記憶力が悪いということを。
ひとつわかっていることは、
これが老いのせいではないということだ。
なぜなら自分が忘れっぽいことを認識したのは、
小学生のときだから長い付き合いなのである。
小3の梅雨の時期、
新品で買ってもらった傘を3回連続で
どこかに置き忘れて紛失した。
家に帰って、激怒した母親に、
「もうお前は、寺に預ける」と、
冗談みたいな凄まれ方をされた。
そのことがトラウマで幼少期はお寺が恐かった。
夕方にやっていたアニメの一休さんですら、
ひたむきな小坊主たちを観ると、
なんとはなしに切なくなってきて、
あんまり好きになれなかった。
(ちなみに、今ではすっかり
寺と仏像のマニアである)
記憶はご丁寧に季節ごとに ちなみに、梅雨が差し迫ったこの時期は、 きっと、食べた時期もよかったんだと思う。
だからといって全方位に
記憶が無くなるわけではない。
それどころか、事柄によっては、
正確な時期と映像をともなって
鮮明に覚えている。
なかでも美味しいものの記憶は顕著だ。
脳内フォルダーに蓄積されている。
そして、こちらから掘り起こさずとも、
その時期がくると、
勝手に記憶が脳内の表層を
スクリーンセーバーのごとく
ゆらゆらと漂いはじめる。
飛び込みで立ち寄った沼津の洋食屋の
イサキのグリルを思い出す。
ちょうど食に興味を持ち始めたころの記憶で、
イサキがこんなにも旨い魚だったのかと、
それまでないがしろにしていた自分を
悔いたことをよく覚えている。
イサキは一年中出回っている魚だが、
ちょうど産卵前の今の時期は、
梅雨イサキや麦わらイサキと呼ばれて、
とくに脂がのって美味しい季節だ。
実際に、イサキは方々で たとえば「イサキの生き腐れ」。 ひどいのが、関西のある地域による
同じ白身で旬の時期も近い
鯛との格差じゃないか。
めでタイという語呂合わせもあって、
とにかく祝いの席が似合う鯛を陽とすれば、
その対極となる陰に相応しいのは
イサキしかないんじゃないか。
ひどい言われようである。
これは、元来イサキが濁ったような目を
していることから、産まれた言葉だ。
ただ、これに関しては
見た目が由来だから百歩譲ってわかる。
「カジヤコロシ」という呼び名だ。
これは昔、この地域の鍛冶屋が
イサキを食べている時に、
喉に骨が刺さって死んでしまったという
逸話から付けられたそうな。
たしかにイサキの骨は硬くて丈夫だけど、
こんなの、言ってみれば
だだの鍛冶屋の自爆じゃないか。
さばかれて食べられる側のイサキが
殺し屋に仕立て上げられるのは
あまりにかわいそうだ。
僕は最初に食べた洋食屋の 一昨日もこれをアテに
影響かどうかは知らないが、
旬のイサキは驚くほどに安い。
先日も近所のスーパーに
丸々太った一本が400円ほどで売っていて、
それが視界に入ったら
買わない手はないと思っている。
イメージが忘れられず、
イサキは洋食で食べるのが好きだ。
一番簡単でよくやるのはムニエル。
また、たまに時間があると、
いろいろなお野菜とハーブを使って
オーブンでグリルにする。
彩り豊かなこの一品は、僕にとっては
白ワイン必須の素敵なご馳走
という位置づけとなる。
ついつい吞みすぎてしまったが、
酩酊の頭の中で、思い立ったのは、
「自粛生活で浮いた時間とお金で、
脳ドックでも受けてみようかしら」
ということ。しかし、そんな決意も、
明くる朝を迎えたら記憶から抹消。
でもこれは、記憶力が悪いという欠点より、
むしろ臆病者という僕のもう一つの欠点が
作用したのはここだけの話である。
【H・H】
『 R E C I P E 』
もう冗談抜きに僕は毎日でもいいですね、イサキ。安い。味がいい。たんぱくで食べ飽きない。焼いてもいいし、蒸してもいい。カルパッチョとか、生もいい。料理のバリエーションで言っても鯛と遜色ないと思うんだけどなぁ~。ただやっぱり、鯛の横に陳列されると見た目の地味さが際立つんですよね~。
このイサキのグリルの決め手はタイムを使うことでしょうか。本当は、ローズマリーとかオレガノとかいろいろなハーブを使って作った方がより美味しくなると思いますので、ご家庭にストックがあればぜひ使ってください。もし何もない場合、一本400円のイサキの料理を作るためにわざわざいろいろなハーブを買い揃えるのはもったいないと思いますので、もし一種類だけチョイスするとしたらタイムがいいと思います。
一緒に飲んだ白ワインは、フランスのシャトー・デ・ゼサール。ブドウ品種はソーヴィニヨンブランとセミヨンです。ほのかな酸味とフレッシュな果実味。甘さの中にソーヴィニヨンブランらしいハーブのような爽やかさが混交した香りがあります。もちろん、ハーブをきかせたイサキのグリルとの相性も最高でした。
用意するもの イサキ(三枚おろし)1本分 新じゃが(きたあかり)1個 トマト1個 ブロッコリ1/2房 A(しょう油小さじ2 白ワイン大さじ2 タイム適量) にんにく(荒みじん)1かけ オリーブオイル大さじ2 小麦粉大さじ1 塩コショウ適量 レモン(くし切り)1/4個
① 野菜を切り分け器に盛ったら塩を少々。その後ラップをしてレンジで3分蒸し焼きにします。
新じゃがとトマトは2ミリほど厚さに、ブロッコリは小房を適度な大きさに切り分けます。耐熱容器に新じゃがが一番下にくるように盛り付けて、全体に小さじ1ほどの塩をふります。その後、ラップをして600Wの電子レンジで3分ほど加熱します。
② イサキを切り分け小麦粉をまぶしたら、フライパンで表面に焼き色がつくまで中火で焼きます。
イサキは半身はさらに半分に切り分けて、身の厚い部分に×印に切れこみを入れます。塩コショウ(各小さじ1)で下味をつけたら小麦粉を身の両面にいきわたるように薄くつけます。フライパンにオリーブオイル大さじ2とニンニクを入れて中火に。香りがたってきたところでイサキを入れてうっすらと焼き色がつくまで焼きます。
③ ①に②を中央に盛り付けて、Aを全体にまわしかけたらオーブンで焼く。
イサキを①の中央に盛り付けたら、フライパンに残った油とあらかじめ混ぜ合わせたAを全体にまわしかけます。あらかじめ220度に熱しておいたオーブンで6~7分ほど加熱して、イサキに火が通ったら完成です。最後にレモンを全体にまわしかけましょう。
用意する物→イサキ8枚にしてゴチって下さい❤
おそらく、なーこさんでも簡単に作れますよ~